2012年01月26日

第679号:イメージソングは『LOVE IS ALL ~愛を聴かせて』でお願いします(*^^*)

今日はいい天気でしたね。少しごはんも食べられるようになりました。まだ本調子ではありませんが、厄払い中のつもりでいます~皆さまもお気をつけ下さいね。



『愛しい人へ…』第3回


外の階段を誰かが駆け上がる音が聞こえる。その靴音は部屋の前で止まり、玄関の扉が再び開いた。
「鍵をかけろって言ったのに……守らなかったな」
途切れ途切れのその声は本人にしか聞こえない。「どうして…」という彼女の問いかけも音にならず、相手には伝わらない。大きく深呼吸をした後、ゆっくりと近づいてくる人影。しばらくしてユキは、彼の髪や背広に冷たく光るものがあるのに気がついた。
「……雨?」
「途中から少しね。……ユキちゃんにも降ってる」
トドロキの指先が涙をぬぐう。
「ただいま」
子どもに語りかけるようにうつむいたユキに言う。雨が追いつき、アパートの前に植えられた木々が窓を叩きはじめた頃、彼女の声が聞こえた。
「おかえりなさい」
トドロキは微笑み、彼女を抱きしめた。その肩はふるえ、いつも見ていた姿よりずっと小さかった。


明かりのおちた部屋、冷たいベッドに身を預け瞳を閉じると、いつもの暗闇が見える。違うのは、自分以外のぬくもりがあることだ。
もう誰かをこの腕に抱くことはないと思っていたけれど―彼女の涙は見たくない。冷えた背中にまわされた白い腕はあたたかい。自分の名前を呼ぶ彼女の声は切なく響き、噛みしめて紅く染まった唇からもれる吐息は闇を彩り消えていく。
もう誰かの胸で眠ることはないと思っていたけれど―大人になっても夢はみたい。髪をなでてくれる彼の手はやさしい。肌にふれた唇は薄紫の花を咲かせ、熱のある身体を冷たい指先がなぞり、指先が重なった。
今までの日々は、この瞬間のためにあったのだろうか―お互いに必要としている人の手を強く握りしめた。


ユキが目を覚ました時、彼は指定席で本を読んでいた。起き上がった彼女に気がつくと真面目な顔をしてこう言った。
「ユキちゃん、パジャマのボタン、なんかヘンだよ」
ワイシャツ姿のトドロキは笑いながら耳まで赤くなった彼女のそばにいき、自分がかけ違えたボタンをなおしてやった。
「うん、ついでに髪もなおそう!!」
ユキの髪をとかし、三つ編みにしながら「なんかあやしい、この人!!って思ってるだろ? 昔、やってたからさ、わりと慣れているんだ」
高校の文化祭「一高クイーンをマコトにしようぜ!!」と悪友たちと盛り上がり、いろんな場所に“勉強”に行ったのだと話す。実際は美容師のやメイクアップなどの仕事についている家族のいるクラスメイトにムリやりご指導をお願いしたのだが…かなりの脚色が加えられた内容だったが、ユキは素直に信じたらしい。
「笑えるようになったな」
トドロキは安心したようにユキの頬を軽くたたきながらつぶやいた。
まだいくらか顔の赤い彼女の熱を計り、薬をのませた後、彼は少し低い声で言った。
「ユキ、あと2年待てるか?」
その言葉とうなづいた自分を見た彼の笑顔をユキはずっと大切に胸にしまっている。
「よし、また眠れ。今夜はずっとそばにいるから」
その夜、何度も重ねた唇は優しくあたたかかった。


風もおさまり、雨もやみ、カーテンの隙間から陽がさしてきた。ユキの額に手をおくと、平熱に戻ったのが確認できた。
まだ夢の中にいるユキの左手の薬指にネクタイのほどけた糸を巻きつける。それは約束の日のために必要な準備の第1号だった。
トドロキは耳もとに“行ってくる”と囁き、唇にそっとふれてから部屋を出た。鍵を締める音ともうひとつ別の音がした。合鍵を持たない彼は―この後もそうだった―部屋の主の鍵を使った。それをタバコの空き箱にしまい、郵便受けから投げ入れたのだ。その中にはこんなメモも入っている。
“女の子のひとり暮らしは危ないからきちんとカギをかけること”


寝不足の彼に慣れない朝の電車は地獄で、会社までの道のりは恐ろしく遠く感じられた。
「いつも遅刻しそうなトドロキさんがめずらし~!!」
総務のミチルは毎朝一番乗りだ。返事をするのが億劫な彼は作業着に着替え、自分の席に着き、ようやく落ち着いた気分になったのだか、ミチルの一言に渡されたコーヒーカップを受け取りそこねるところだった。
「ゆうべは良かったですね~」
トドロキの慌てぶりを不思議そうに見ながら、ミチルは続けた。
「キシモト社長、すっごくゴキゲンだったって聞きましたよ」
彼は平静を装い、姿が見えない後輩のことをたずねた。
「タツキさんですか?明後日まで有給とっていますよ。札幌から彼女が来るんだってすっごく嬉しそうでした」
「あのヤロー……」
「そう言えば…“トドロキさんも明日は休むかも”ってメールもらったんですけど、何かあったんですか?」
トドロキは返事のかわりに大きなクシャミをした。


まだまだ続くφ(..)



rohengram799 at 22:07│Comments(11) 愛しい人へ… 

この記事へのコメント

1. Posted by 松尾陽   2012年01月26日 22:19
今度は純愛ものっぽくなってきましたね。
なんかほのぼのして、いい雰囲気です。
それにしても、にゃんこが気になります(そこか)。
2. Posted by 千葉のおっちゃん   2012年01月27日 00:22
こんばんわ。久しぶりの書き込み失礼します。

体調、良くなられて来ているみたいで良かったです。僕も昨年末に盛大に発熱しましたが、治った後はむしろ体も軽くなった気がしてそれこそ「厄払い」な風邪だったのかなと思っています。
寒さは続きそうなので、ひたすら暖かくしてお過ごしください。
3. Posted by bennymama   2012年01月27日 02:28
お久しぶりです。
今年もよろしくお願いします。

大丈夫ですか?

吐き下しも流行ってますね。
インフルエンザが大接近なので、今年はマスクマンで行こうと思っています。

早く良くなりますように。
お大事になさってくださいね。
4. Posted by なう60   2012年01月27日 08:00
おはようございます。
お大事にして下さい。体調回復まで無理は、禁物です。
純愛物語、どんな展開に、楽しみにしています。
5. Posted by まろゆーろ   2012年01月27日 09:34
ゆっくりと養生して下さいね。
厄払いには何もしないのが一番らしいですよ。

いよいよオスカーさんの執筆活動が開始でしょうか。
これまで受け入れていた文学を外に向けて放出の時が来たって感じかな。
これからを楽しみにしています。
6. Posted by ラブソン   2012年01月27日 16:31
5 オスカーさん、こんにちは
お体の方は大丈夫でしょうか僕の方は…まあまあって云った感じですね(笑)。

僕の中での椎名恵さんのイメージは、大映ドラマの主題歌をよく歌われていたなぁて云うイメージがあります
7. Posted by たいちゃ~ん   2012年01月27日 18:01
5 こんばんは!(^^)!

体調は如何でしょうか(@_@;)
という私も2~3日前から 熱っぽくて休養しています。
体調が悪いと 何かと大変です~~~お互い自重し、
早く回復いたしましょう( ^^) _U~~

純愛物語 ハマってしまします~~~さ~~てどんな展開と
なるのでしょうか(?_?) 楽しみです(#^.^#)
8. Posted by オスカー   2012年01月27日 20:33
§松尾陽さま
「純愛」!!意識したことがなかったですわ(笑)黒猫ではなく例のねずみ男だったお犬さまを今朝見ました。

§千葉のおっちゃん様
長年の怠け者のツケがやってきました…回復を開福にすべくがんばります!!

§ bennymamaさま
職場でマスク使用禁止がんばりちょっとツラいです~家族に風邪引きがいないのが幸いです

§なう60様
今回少しずつ手直しをして書いていますが…ツッコミを入れたい場所があってもガマンして下さい(笑)
9. Posted by オスカー   2012年01月27日 20:34
§まろゆーろ様
自分のイメージを言葉にするのはやはり難しいですね。なるべく綺麗な言葉で…と思って書いていますが、どうでしょう?

§ラブソンさま
大映ドラマもコテコテの展開でわかりやすくて好きでした。またああいうドラマがみたいですね!!

§たいちゃ~ん様
こんなにな食欲がないのも珍しいくらいです。食べないと本当に寒いんだと実感しました
10. Posted by Minorpoet   2012年01月27日 22:33
5 オスカーさん こんばんは♪

何だかいい感じですね~ トドロキさんとユキさんの関係!少し前の「フォークソング」のような心地よさがありますね♪

オスカー様は思いのほか、純粋な文章を書かれるので感心してます☆
11. Posted by オスカー   2012年01月28日 21:44
§ Minorpoetさま
>思いのほか純粋な文章
…普段のワタクシから相当かけ離れております(笑)

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