今日、キャンパスノートのコマーシャルで尾崎豊の声、彼の書いた文字を見ました。うん、やっぱりノートに字を書くのっていいな、と思いました。私も一度ノートに走り書きみたいにしてから、話を組み立て打ち込みます。「紙とペン」は大事な戦友であります。


ところで、甲斐バンドの『翼あるもの』という歌をご存知でしょうか? 実はこの物語のタイトルはこの歌が好きなのでつけちゃいました!! 大和和紀さんの漫画でも同じタイトルがあった気がするのですが、かなり昔なので覚えていません(((・・;)


♪俺の声が聞こえるかい
/お前に呼びかける/こらえ切れず/そばにいたいと/叫びつづける…


『翼あるもの』第4回


レンハートは事務所に戻り、明日の取引と『レイナ』での出来事を話した。ブルースはしばらく何も言わなかったが、その後の行動は素早かった。行き先は聞かなくてもわかっている。安堵とも落胆とも言いがたい息を吐き出した後、レンハートは受話器をとった。
「オレだ。やっと動き出したぞ。オヤジいるだろ? かわってくれ」
窓越しに星は見えたが、月は姿を隠していた。


扉の軋む音と静かな足音が遅い来客を告げる。ゆっくりと闇に目をならし、辺りを見回す。初めてこの店に立ち寄った時とはあまりに違う店内の様子にヒュームの執念に似た悪意を感じずにいられない。穴のあきかけた壁、壊れた椅子、カウンターにはこぼれて中身がすっかり空になった酒の瓶が何本も横になっていた。そして視線を店の一番奥に向けると、彼女がいた。


「……アヤ?」
ここに移り住んでから、その名前を口にするのは父だけだった。
「アヤという漢字は“彩”と書くんだ。いろんな人と出逢って、たくさんの綺麗なものを見て、彩り豊かな人生をおくってほしいというお母さまの願いが込められている名前だ」
母と父ともうひとり、それ以外の人間にこの名前を呼ばれたくはなかった。だから、彼への想いと一緒に母の形見を胸の薔薇に閉じ込めた。胸元を隠すように自分の肩を抱きしめうつむく彼女のもとに、ブルースは一歩一歩近づいていく。捨てられた子猫を驚かせないように歩く少年のように。


「アヤ……アヤって呼んでいいんだよな。“お嬢さま”じゃなくて」
彼女の姿勢にあわせて膝を折ったブルースは言った。
「こんなふうになったから……? もうここもおしまいよ。誰もこない…もう…何もない」
「何も変わっていないよ……少なくともオレの気持ちは変わっていない」
その言葉に顔をあげると、あの幼い日のように少し照れ臭そうに、せつなそうに自分を見つめる青い瞳があった。
「私は…自分の大切な人にもお母さまと同じようにしてもらいたいって言ったわ。この街は忘れても覚えているでしょ?」
見開いた黒い瞳からは涙がおちる瞬間、彼は彼女を抱きしめた。
「アヤ、愛してる。アヤ、愛してるよ、愛してる…」
10年の空白を埋めるかのように何度も彼女の名前を呼び、彼女の髪をなでてやった。


白いドレスに手をのばしたブルースに彼女は言った。
「私より…あなたの方がふるえてる」
「純情なものでね」
そういう彼のまなざしはおだやかで、鋭いナイフの光を消していた。日焼けした肌に残る花びらをいとおしむように細い指がふれる。その指の持ち主には小さな薔薇の刺青がある。父の葬儀の翌日だった。自分を傷つけるのはやめてくれと言われたが、これがなければもっと深い闇に沈んでいただろう。


「傷が痛むとあなたも辛いのかしらと思ったわ。これを見るたびにあなたを強く想った。でも…」
店名の“レイナ”は幼い頃、自分に子どもができたらつけようと思っていた名前だった。母がそうしてくれたように、自分も生まれる前から愛情をそそぐのだと。しかし、この身体を見知らぬ男に委ねなければならないと決まった時、自分の心の一部を捨てたような気がした。彼への愛の証が罪人のそれに変わったような…。
(やっぱり私はこの人の腕で眠る資格はない)
離れていこうとするアヤの手に自分の手を重ね、ブルースは微笑んだ。そして何か言おうとする彼女の唇をふさいだ。そのぬくもりと共に彼の鼓動も伝わってくる。髪をまとめていたリボンがほどかれ、シーツの海に柔らかい栗色の涙がひろがった。黒い宝石をしまいこんだまふだに、そして胸の薔薇に口づけし封印を解く。ためらいがちに腕をまわした彼女の耳に彼のやさしい声が聞こえた。
「本当は……ずっとこうしたかったんだ」


次で終わらない…かも(--;)