ようやく新潮文庫編集部編の傑作随想41編『あのひと』を読み終わりました。読んだり休んだりを繰り返していたので、本もだいぶくたびれてしまいましたが(;^_^A



吉原幸子さんが亡くなられたお母様のことを書いたという『あのひと』という詩を「あのひと考」という最後の随想で谷川俊太郎さんが紹介していました。8月は私が「いのち」について、家族について一番考える特別な月のひとつです。あのひと……という言葉のもつ不思議なあたたかさ、懐かしさを皆さまと共有できたらと思います。皆さまの心に浮かぶ『あのひと』はどんな方でしょうか?




 あのひとは 生きてゐました
 あのひとは そこにゐました
 ついきのうふ ついきのふまで
 そこにゐて 笑ってゐました

 あのひとは 生きてゐました
 さばのみそ煮 かぼちゃの煮つけ
 おいしいね おいしいねと言って
 そこにゐて 食べてゐました

 あたしのゑくぼを 見るたび
 かはいいね かはいいねと言って
 あったかいてのひら さしだし
 ぎゅっとにぎって ゐました

 あのひとの 見た夕焼け
 あのひとの きいた海鳴り
 あのひとの 恋の思い出
 あのひとは 生きてゐました
 あのひとは 生きてゐました   




少しばかり体調が悪いので、次回更新は月曜日になります。お返事も遅れます。ごめんなさい<(_ _*)>



『あのひとが来て』(谷川俊太郎)



あのひとが来て
長くて短い夢のような一日が始まった

あのひとの手に触れて
あのひとの頬に触れて
あのひとの目をのぞきこんで
あのひとの胸に手を置いた

そのあとのことは覚えていない
外は雨で一本の木が濡れそぼって立っていた
あの木は私たちより長生きする
そう思ったら突然いま自分がどんなに幸せか分かった

あのひとはいつかいなくなる
私も私の大切な友人たちもいつかいなくなる
でもあの木はいなくならない
木の下の石ころも土もいなくならない

夜になって雨が上がり星が瞬き始めた
時間は永遠の娘 喜びは悲しみの息子
あのひとのかたわらでいつまでも終わらない音楽を聞いた