2015年11月27日

暁雲便りNo.33:心はあなたのもとに

《「悪霊はらう」糖尿病の7歳、治療させず死亡》……新聞にまた痛ましい見出しが……。


体を触る行為を「治療」と称し、重い糖尿病を患っていた宇都宮市の男児(当時7歳)に適切な治療を受けさせずに死亡させたという栃木の会社役員の男(60)。男児の家族によると、男は「悪霊をはらう成功報酬」などとして、両親から200万円以上を受け取っていたとか。男は男児が1型糖尿病と診断されていることを知りながら、治療に不可欠なインスリン注射をさせずに男児の足や腹を触るなどの行為を繰り返したことで今年4月男児を殺害した疑い。病気治癒にお祓いとか薬や病院以外のものに頼りたくなる気持ちはわかります。その気持ちを利用してお金をまきあげるだけでなく暴行とは……。


テレビでも1型糖尿病について解説していましたが、膵臓のβ細胞が壊れてしまい、まったくインスリンが分泌されなくなってしまうのが1型糖尿病。インスリンを体外から補給しないと生命に関わるため、インスリン注射を欠かしてはなりません。私たちがよく知っているのは2型糖尿病という、遺伝的に糖尿病になりやすい人が、肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発病する方ではないでしょうか。1型糖尿病を発症するのは子どもや若い人に多く、最初は風邪に似た症状が出るそうです。



『心はあなたのもとに』 (村上龍)というタイトル買いした本を読んでいたのですが(解説が小池真理子さんなのも決め手でした)その主人公の恋愛対象となる女性がこの1型糖尿病患者でした。


「恋の対象というのは、常に不在なのではないか」……そう書いたのは、フランスの哲学者、ロラン・バルトだったと思う。/恋する相手が不在であれば、恋ごころはかきたてられる。恋人が遠い外国に行ってしまったり、重い病で入院していたり、その他、様々な事情で触れたいと思う時に触れられず、話したいと思う時に話せなくなると、私たちの恋はより深度を増す。恋人に向けた想いがいっそう強まる。


小池真理子さんの解説はこんな文章から始まりました。主人公というか物語をすすめるのは西崎という50歳を少し超えた、「外資で鍛えられたエリート」投資家で、2度目の結婚をした7つ年下の妻との間ふたりの娘がいます。夫婦仲はよく、娘たちはすくすく育ち、家庭は円満で何の問題もない。


そんな金に余裕が有りすぎる男が、いろいろ遊び歩いているのに風俗で働いていた香奈子という離婚歴のある女性と特別な関係を持ちます。パトロン的な感じですかね? 風俗をやめさせ、銀座のホステスになり、管理栄養士を目指し専門学校へ通わせたり……入院費も負担したり……しかし病状はアップダウンを繰り返し、結果的には悲しく寂しい結末に(これはもう最初からわかっています)。


西崎に対してイヤな男と思う人もいるでしょうが、私は病人の気持ちやその人との接し方(というと語弊があるかもしれませんが)についての描写はうんうんと納得するものでした。心療内科の医師のアドバイス的なものも素直に受け入れられたし……エロエロ場面が思ったより少なく、ビジネスと恋愛の話のバランスもよかったからかも。彼の両親や家族についてはこんな人たちもいても不思議ではないよね…って感じ。こんな世界の人たちと全く知り合いではないのに、リアリティがあるというか……さすが大物作家は違うなぁと(笑)



『誰かを大切に思う気持ちは、何かを変化させ、いつか必ず相手に届く。』



この言葉にお鼻がツーン!となったワタクシです。ラストはちょっと…という人がいるかもしれませんが、私は好きです。『美しき一日の終わり』のねーさんがあまりにも世話焼きでうっとおしい愛情だったのに比べて、こちらのふたりの方が純度が高い気がしました。あくまで私の感想ですけど(^o^;)





この記事へのコメント

1. Posted by 猫ムスメ   2015年11月28日 07:44
このニュースを見た時「親が馬鹿すぎだろ!」と思いましたが、後から「毎日注射で痛がり大泣きする息子が不憫でなんとかしてやりたかった。藁にもすがる思いだった」というような供述を聞き、涙が出そうになりました。子供への想いから、すがる相手を間違ってしまっただけ。どうかご両親を法的罪には問わないであげてほしいです (>_<)

村上龍、こんないい話を書くんですね。オスカーさんの読後の満足感が伝わってきました😊✨
高校生の時「トパーズ」を読んで以来ノータッチでしたが(笑)、見直さなきゃいけないかなと思いました((o( ̄ー ̄)o))
2. Posted by まろゆーろ   2015年11月28日 09:47
愛くるしい男の子の姿に一層の悲劇を感じました。
親も親だと思っていましたが、「すがる思いで」という親として当たり前の気持ちをニュースで知って、
その親ごころに付け込んだあの占い師に言いようのない怒りを覚えています。
益々もって胡散臭い人間かどうかを見極めなきゃいけない世の中になったということでしょうね。

作家という職業の人って、さすがだなと思うことがあります。
自分はその専門ではないのに言葉に替え、読む人々に夢や想像、リアリティーささえも伝えるのですから。
感動という芽を膨らませる力。とでも言うのでしょうか。尊敬ですね。
たまにペンに借りてとんでもないことを広める浅はかな人間もいますが。
そんな作家たちの甘い罠のトリコになっているオスカーさん。これからもどんどん見聞見識を広めていって下さいね。
3. Posted by HyperChem   2015年11月28日 15:24
科学の進歩と心の問題は相反するところがあります。
医学の急激な発達に人の心がついていけず、人として
生き物として心が正しい判断を下せなくなる。そんな
ところを利用しようとした悲しい事件ですね。
先端医療が必ずしも人を人を幸せにするとは限り
ませんが、治る若い命を失うのはあってはならない
ことだと思います。
逆に寿命が延びて、その生き方が問われていますね。
NHKの「破裂」も衝撃的でしたが、「老害」と言われない
ように生きていけるか、考えさせられます。
4. Posted by ミューちゃん   2015年11月28日 16:45
5 オスカーさん、こんにちは
「ずんずん運動」の事件の時も思いましたが、加害者は反省してないって言うか、そもそも自分が悪い事をしてるって云う自覚がないのかなって思ったりするんですよねとなると、やっぱり病院で治療させた方が得策だと思うのですが、その病院で事件を起こすケースも多々ありますからね…
5. Posted by bennymama   2015年11月29日 09:25
このニュースの親に、私、ちょっと共感できるんですよね。

200万で助けてくれるなら、お金出しますよ。
ホントに治してくれるなら、何でもしますよ。

こんな話、昔よくしました。
子どものひどいアトピーと原因のわからない食アレと戦っていた頃。
同じ状況の親たちと集まったとき、ご祈祷で治るなら、ホントに金つむよねって。

そこまでいかないで、いい治療法と出会えて、私は幸せです。

でも、この親もそのくらい、きっといろんな病院に行き、いろんなことを調べて、そこまでいったんだと思います。憶測ですが、、、

心無い批判を、この親にしている人の子供や家族は、きっと健康で問題ないのでしょうね。
6. Posted by オスカー   2015年11月29日 15:48
§猫ムスメ様
村上龍=エロエロ描写満載!なイメージだったので、ページ数が多く女遊び場面も多いのにちょっと意外でした。物語はフィクションですが、友人の一人が同じ病だったのが執筆のきっかけになったようです。
7. Posted by オスカー   2015年11月29日 15:52
§まろゆーろ様
以前ビジネスマン必読だの感涙だの煽り文句満載の『青い約束』という本を読みましたが、ビジネス部分も男女関係も構想不足だろ、とスゴい不満を持ったので、経験や技量の差をありありと感じました。
8. Posted by オスカー   2015年11月29日 15:57
§HyperChemさま
愛人が病人ということで医療ビジネスについてもわりと記述が多かったですね。高級な会員制の病院の善し悪しなどうーん、そういうこともあるのかと勉強になりました。女性目線で小池真理子さんに書いてもらいたいかも…なんて思いました。
9. Posted by オスカー   2015年11月29日 16:02
§ミューちゃん様
以前もミイラになっても生き返る!とかいう団体がいましたよね。そして完全にお金儲けを目的にしている人たちもいるし…。医療は日々進化していますが、きちんとその技術を活かせる優秀な医師や治療者がどのくらいいるのか……。
10. Posted by オスカー   2015年11月29日 16:08
§bennymamaさま
今もまだアトピーや喘息に対して甘えだとか言う人がいるのをきいて、驚いてしまいます。報道は一部分だけで全部ではないし、子どもを亡くした親が一番辛い思いをしていると思うので、今後はそちらのケアにも力を入れてほしいですね。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
記事検索
月別アーカイブ