2016年03月20日

春雲便りNo.20:恋歌

咲いた、咲いた、桜が咲いた~! 福岡市と名古屋市でソメイヨシノが開花したとのこと。関東もあと少しでしょうか?



競技かるたを題材にしたマンガ『ちはやふる』の映画が公開されましたね。私はマンガもアニメも見ていないのですが、殿方にも人気とか! 古の歌人たちは現代まで残った自分の歌をどう思っているでしょう? 「実はこちらの方が自信作だったのに」とか「そんなつもりで詠んだ句ではないのに」とか解釈に異議を唱えたい人もいるかも?



歌つながりで、朝井まかてさんの『恋歌(れんか)』を今月はじめに読みました。樋口一葉の師匠「中島歌子」が主人公です。一葉は山梨にゆかりのある作家なんですが、作品を読んだこともなければ生涯も詳しく知らず……中島さんのことも初めて知りましたし、天狗党についても名前しか知らないという状態でした。


中島歌子は、歌塾「萩の舎」の主宰者。ある日、かつて門下生だった花圃のもとに、歌子が入院したとの報せが…。花圃は歌子を見舞った後、いろんな整理を兼ねて自宅を訪ね、そこで歌子による大量の書を見つけました。それは歌子が歩んできた壮絶な半生の記録だったのです。


時代は幕末、場所は江戸……歌子と名乗り多くの浮き名を流した彼女ですが、まだ登世(とせ)だった少女時代に熱烈な初恋を成就させ、天狗党の志士に嫁いで水戸へ。しかし尊皇攘夷の急先鋒だった天狗党はやがて暴走し始め、内乱も激化。彼女は夫と引き離され、自らも投獄されることに……。


最初は一途に想いをよせる彼女が可愛らしくて、嫁いだ後は「ブラコンの妹に負けるな、ガンバれ!」なんてノンキに思っていたのですが……だんだんと浮かれ気分ではいられなくなり、投獄され解放されるまでを描いた第五章はもう苦しくてたまらない。まるで自分もその中に閉じ込められているような気持ちに……すぐに感想を書くことが出来ませんでした。時代小説を読むと自分たちが今在ることの重さを感じます。己の信じる道が正しいと考え、真っ直ぐに突き進む人たち……それは武士だけでなく農民たちも同じ。自分たちのためだけでなく次の世代のためにと慣れない武器をとり戦い、力尽き……。


先に逝ってしまった方々の辞世の句を心の中で繰り返し詠みあげることで荒く乱れた息が静まってくるのを感じた彼女は、他の大人たちと幼い子どもたちを集めてカルタ遊びを始めます。どんなに小さな子どもでも、容赦なく首が斬り落とされる凄惨な日々の中で、自分も途轍もない恐怖を感じながらも、少しでも子供達の不安を和らげようと百人一首を詠みあげるのです。三十一文字に込められた、豊かな感情、あふれんばかりの想い、それは一時のなぐさめになるだけでなく、生き抜く支え、力にもなったと思います。


「青鞜」というタイトルは他の章のタイトルも素晴らしいのですが、いろんな意味を含んでいるんだろうな、と……これを選んだのはさすがだ!と生意気にも思いました。




『君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ』



別れの言葉もなく、ひとりで逝ってしまったあなた。恋することをあなたが教えてくれたのだから、忘れることもあなたが教えて下さい。



この句を読んだ時に、ユーミンの『NIGHT WALKER』がうかんできました。こちらは単純な(といっては失礼ですが)

私を置いてゆくのならせめて
みんな持ち去って
あなたが運んでくれた全てを




夫婦として生活した時間は本当に短くて、ひとり残された時間の方がはるかに長かった人生。今、天上でしあわせですか?などと、まだ恋を知らぬ少女のように問いかけたくなる、そんな女性の一生が描かれた作品でした。






rohengram799 at 10:11│Comments(12)空のお城図書館 

この記事へのコメント

1. Posted by ミューちゃん   2016年03月20日 16:43
5 オスカーさん、こんにちは
カルタは作り物ではやった事はありますが、本格的に百人一首でカルタをした事がないですね…百人一首だと僕は坊主めくりで遊んでました(笑)ルールは地域によって違うみたいですが、僕らの地域だと蝉丸が出た時点でゲームオーバーになってましたね(笑)
2. Posted by のざわ   2016年03月20日 21:08
オスカーさんとても素晴らしい記事でした。
最後まで一気に読みました。
最近関ヶ原に観光で訪れた私はにわか歴史ファンになり、また時代の残酷さに
肩を落としました。
関ヶ原近くにお住いの知人Mさん(ガイド役の男性)に「人間の残酷性を知って、気持ちが
沈むことはないですか?」の問いに「私も天下を取りたかった」と。
発想の違いにびっくりしました。私はやわな女性です。
3. Posted by なう60   2016年03月21日 10:47
おはようございます。
「己の信じる道が正しいと考え、真っ直ぐに突き進む人たち……自分たちのためだけでなく次の世代のためにと慣れない武器をとり戦い」
自爆テロ、すさまじいですね。強制的でなく己を信じての行動でしょうか?ガリレオが裁判で「それでも地球は回っている。真実とは何か、
世論の大半が賛成でも「間違っている。」こともある。真実を見極めることが大事ですね。
4. Posted by 見張り員   2016年03月21日 14:00
こんにちは
私も古人たちに「この歌を詠んだ背景は?」「今どう思ってますか?」などと聞いてみた気ことたくさんありますねw。
現代人の解釈と全く違っていたらさぞ面白かろうと!

桜の開花宣言が出ましたね、うちの裏の桜は昨日咲いていよいよ春到来!!ヤッホー(でも花粉症がひどいです)。
5. Posted by 猫ムスメ   2016年03月21日 15:16
東京も今日、開花宣言されましたね🌸

「恋歌」、かなり重みのある内容のようで、おいそれと“読んでみたいです♪”とは言えません😢

ちなみに今日は朝早くから九十九里までお墓参りに行ってきました。早咲きの桜を愛でながら、亡き方々に思いを馳せる一日でした。
6. Posted by オスカー   2016年03月21日 18:51
§ミューちゃん様
高校時代はクラス代表三人が冬休み明けに百人一首かるた大会に出なくてはいけない決まりになっていたような……もうだいぶ前なので忘れてしまいました(笑)
7. Posted by オスカー   2016年03月21日 18:55
§のざわ様
「天下をとりたい!」という野心・野望を持った人たちはたくさんいたのかもしれませんね。実行するしないは別にして…。戦国時代の女性は特に交渉物扱いで、あちこちに嫁がされ……それを考えたら文句を言いながらもダンナと暮らせるのはとてつもなく幸せなことですね。
8. Posted by オスカー   2016年03月21日 18:59
§なう60様
環境により思考・思想ってかなり変わると思います。十分な情報が与えられていなければ、目の前にあること、言われたことを信じるしかないですし…幼い子どもなどすぐ洗脳されそうです。視野を広げ、情報を精査するって本当に大事…心しておきます。
9. Posted by オスカー   2016年03月21日 19:43
§見張り員さま
東京の桜が満開になるのは今月末くらいだとか…花見といえば騒ぐもの!と思っている人たちには風流とか理解出来ないのでしょうねぇ……。永く受け継がれてきたものにはいろんな想いが宿っていますが、正直に書けなかった手紙とか本当の本当の気持ちを知りたい!という文章もたくさんありますね。
10. Posted by オスカー   2016年03月21日 19:48
§猫ムスメ様
投獄されてからの出来事は読むのがとても苦しいですね。その分、歌の果たした役割の大きさもわかるのですが、キツいですわ…。 今日は風が冷たく感じられましたが、桜の開花を聞くとやっぱり春だなぁ~と思います。四季の移ろいを愛でる感性、そしてそれを表すくさんの言葉をいつまでも大切にしたいです。
11. Posted by ナンチャッテ   2016年03月22日 08:37
ソメイヨシノの開花宣言で大騒ぎする日本人は少しおかしい気がしています
咲いていても、まだ数輪なのに・・・って

東京では、正装した職員が『お待たせしました』と初めての開花宣言
それを拍手で歓迎する多くの観客
やっぱり変だなぁってw

名古屋では、街路樹のハクモクレンが綺麗に満開です
あと数日で散ってしまうのでしょうが、今の私には桜よりも木蓮で癒されております
(ノ´∀`*)
12. Posted by オスカー   2016年03月22日 09:03
§ナンチャッテ様
花見というより酒を飲んで騒ぐための理由がほしいって感じで……また急性アルコール中毒で救急車な人が増えるのでしょうか(~_~;) ハクモクレンってあったかくなるとイッキに咲きますよね! シモクレンより好きですわ。

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