『地名論』 大岡 信


水道管はうたえよ
御茶の水は流れて
鵠沼に溜り
荻窪に落ち
奥入瀬で輝け
サッポロ
バルパライソ
トンブクトゥーは
耳の中で
爾垂れのように延びつづけよ
奇体にも懐かしい名前をもった
すべての土地の精霊よ
時間の列柱となって
おれを包んでくれ
おお 見知らぬ土地を限りなく
数えあげることは
どうして人をこのように
音楽の房でいっぱいにするのか
燃えあがるカーテンの上で
煙が風に
形をあたえるように
名前は土地に
波動をあたえる
土地の名前はたぶん
光でできている
外国なまりがベニスといえば
しらみの混ったベッドの下で
暗い水が囁くだけだが
おお ヴェネーツィア
故郷を離れた赤毛の娘が
叫べば みよ
広場の石に光が溢れ
風は鳩を受胎する
おお
それみよ
瀬田の唐橋
雪駄のからかさ
東京は
いつも
曇り




バルパライソはチリにあり、日本語に訳すと「天国の谷」だそう。世界遺産になっていました。

https://worldheritagesite.xyz/valparaiso/


トンプクトゥーはマリ共和国の世界遺産。

https://worldheritagesite.xyz/timbuktu/



作者の大岡信さんはすでに鬼籍に入られていますが
(1931~2017)「土地の名前はたぶん光でできている」って、なんて素晴らしい! 私がこのように詩を知るきっかけになったのは、山口青邨の

「みちのくの淋代の浜若布寄す」

という俳句。「淋代(さびしろ)」という青森県の地名の由来が気になって検索していた時に「地名論」という言葉も目に入ったのです。淋代は枯れた草原という意味で、淋代海岸から三沢飛行場にかけての一帯はかつて馬の放牧場があったくらい、大草原だったそうです。地元の人によるとワカメどころか何もないとか(^^;)(;^^)


サッポロの地名由来はコチラで。

http://hokkaido-syuryo.com/study_item/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C%E8%AA%9E%E3%81%AE%E5%9C%B0%E5%90%8D/


詩の最後の「東京はいつも曇り」なんとなく納得してしまいました。♪東京砂漠 のイメージが抜けないのかも。