2021年06月07日

清遊雲便りNo.3:空と土のあいだで

関東の梅雨入りは来週になるとか……雨の日はうっとおしいけれど、いつまでも梅雨入りしないのもなんだかなぁ、な気分になります。

読売新聞朝刊の編集手帳に長田弘さんの詩の一部が引用されていました。タイトルは「空と土のあいだで」。詩集『人はかつて樹だった』に収められているそうです。

https://www.msz.co.jp/book/detail/07229/





空と土のあいだで 長田 弘


どこまでも根は下りてゆく。どこまでも
枝々は上ってゆく。どこまでも根は
土を掴もうとする。どこまでも
枝々は、それを掴もうとする。
おそろしくなるくらい
おおきな樹だ。見上げると、
つむじ風のようにくるくる廻って、
日の光が静かに落ちてきた。
影が地に滲むように広がった。
なぜそこにじっとしている?
なぜ自由に旅しようとしない?
白い雲が、黒い樹に言った。
三百年、わたしはここに立っている。
そうやって、わたしは時間を旅してきた。
黒い樹がようやく答えたとき、
雲は去って、もうどこにもいなかった。
巡る年ともに、大きな樹は、
節くれ、さらばえ、老いていった。
やがて来る死が、根にからみついた。
だが、樹の枝々は、新しい芽をはぐくんだ。

自由とは、どこかへ立ち去ることではない。
考えぶかくここに生きることが、自由だ。
樹のように、空と土のあいだで。 




皆さま、どうぞ今週もご安全に!




rohengram799 at 08:15コメント(0) 

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