伊藤三巳華

2018年08月18日

炎昼雲便りNo.28:ア、秋

8月も後半、暑さはまだまだありますが、空も秋めいてきましたね~青空文庫で太宰治の綺麗な文章を見つけました。ちょっとオチャメなところもあって、ふふっ、と笑ってしまいますが。タイトルは『ア、秋』。以下、全文です。




【本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。
「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついてそのノオトを調べるのである。
 トンボ。スキトオル。と書いてある。
 秋になると、蜻蛉とんぼも、ひ弱く、肉体は死んで、精神だけがふらふら飛んでいる様子を指して言っている言葉らしい。蜻蛉のからだが、秋の日ざしに、透きとおって見える。
 秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。と書いてある。焦土である。
 夏ハ、シャンデリヤ。秋ハ、燈籠。とも書いてある。
 コスモス、無残。と書いてある。
 いつか郊外のおそばやで、ざるそば待っている間に、食卓の上の古いグラフを開いて見て、そのなかに大震災の写真があった。一面の焼野原、市松の浴衣ゆかた着た女が、たったひとり、疲れてしゃがんでいた。私は、胸が焼き焦げるほどにそのみじめな女を恋した。おそろしい情慾をさえ感じました。悲惨と情慾とはうらはらのものらしい。息がとまるほどに、苦しかった。枯野のコスモスに行き逢うと、私は、それと同じ痛苦を感じます。秋の朝顔も、コスモスと同じくらいに私を瞬時窒息させます。
 秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。と書いてある。
 夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、桔梗ききょうの花も、夏になるとすぐ咲いているのを発見するし、蜻蛉だって、もともと夏の虫なんだし、柿も夏のうちにちゃんと実を結んでいるのだ。
 秋は、ずるい悪魔だ。夏のうちに全部、身支度をととのえて、せせら笑ってしゃがんでいる。僕くらいの炯眼けいがんの詩人になると、それを見破ることができる。家の者が、夏をよろこび海へ行こうか、山へ行こうかなど、はしゃいで言っているのを見ると、ふびんに思う。もう秋が夏と一緒に忍び込んで来ているのに。秋は、根強い曲者くせものである。
 怪談ヨロシ。アンマ。モシ、モシ。
 マネク、ススキ。アノ裏ニハキット墓地ガアリマス。
 路問エバ、オンナ唖ナリ、枯野原。
 よく意味のわからぬことが、いろいろ書いてある。何かのメモのつもりであろうが、僕自身にも書いた動機が、よくわからぬ。
 窓外、庭ノ黒土ヲバサバサ這はイズリマワッテイル醜キ秋ノ蝶ヲ見ル。並ハズレテ、タクマシキガ故ニ、死ナズ在リヌル。決シテ、ハカナキ態ていニハ非ズ。と書かれてある。
 これを書きこんだときは、私は大へん苦しかった。いつ書きこんだか、私は決して忘れない。けれども、今は言わない。
 捨テラレタ海。と書かれてある。
 秋の海水浴場に行ってみたことがありますか。なぎさに破れた絵日傘が打ち寄せられ、歓楽の跡、日の丸の提灯ちょうちんも捨てられ、かんざし、紙屑、レコオドの破片、牛乳の空瓶、海は薄赤く濁って、どたりどたりと浪打っていた。
 緒方サンニハ、子供サンガアッタネ。
 秋ニナルト、肌ガカワイテ、ナツカシイワネ。
 飛行機ハ、秋ガ一バンイイノデスヨ。
 これもなんだか意味がよくわからぬが、秋の会話を盗み聞きして、そのまま書きとめて置いたものらしい。
 また、こんなのも、ある。
 芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ筈はずナノニ。
 ちっとも秋に関係ない、そんな言葉まで、書かれてあるが、或いはこれも、「季節の思想」といったようなわけのものかも知れない。
 その他、
 農家。絵本。秋ト兵隊。秋ノ蚕カイコ。火事。ケムリ。オ寺。
 ごたごた一ぱい書かれてある。】




「秋は、ずるい悪魔だ。」ここが一番好き(≧▽≦) こんな風に季節を表現出来る感性が欲しい~!



オカルト系漫画雑誌の『ほん怖』9月号に『視えるんです』というスピリチュアル漫画を連載している伊藤三巳華さんと、ホラー漫画家の伊藤潤二先生の文学スピ☆散歩の特集がありました。カラー記事と漫画で取り上げられた作家は太宰治。玉川上水や三鷹のお墓にお参りに行ったり・・・。



作品の中で太宰の霊(信じる信じないは人それぞれ)は自分のことを「不完全な欠けたコップとして生まれてきてしまった だからいくら水を注がれても満たされることができないのだ」と言っていました。また伊藤潤二先生は『人間失格』を漫画化したので(読んでみたい)何か一言といわれて「・・・物書きたるものは”博愛であれ“」と。


まだ本屋さんにあると思うので(奇数月発売)他の作品は怖くて読まなくても、この太宰治を描いたところは読んでもらいたいなぁ、と思います。三巳華さんの描いた太宰は可愛らしいです。


https://mobile.twitter.com/i/web/status/1021959928506773504







rohengram799 at 08:50コメント(2) 

2010年10月24日

第309号:『ダ・ヴィンチ』の秋

増刊号からしばらく買っていた、本とコミックの情報マガジン『ダ・ヴィンチ』☆ 表紙はモッくんだったんですよね~読んでいると、欲しい本ばかり出てきて仕方ないので(笑)買わなくなったのだけれど、今月は久々に買ってしまった~(((^^;)

いや~、やっぱりいいです!! 今回はコーヒーについてのエッセイ大賞の発表がありましたが(またいいんだな~、この話!)私が印象的だったのは、京都についてのエッセイで、審査員が山田詠美さんだった時。

昔、鞍馬は暗い間と書いた、暗闇の間…という内容だったと思うのですが(なんて覚えが悪いのか)、鞍馬の火祭りとか榊原志保美さんの『炎群の森』だったかな~(-_-;)そんなタイトルの本を読んでいたので、すごく「うーん」と思った記憶があります。貴船神社とか、呪術的な場所というイメージだったので…。

お気に入りマンガとかもここで見つけたりしましたね。『金色のガッシュ!!』はその1つです。ちなみに私はキャンチョメとビクトリームさまが大好きです!!

「百人書評」も復活していて、以前『銀英伝』の時は「登場人物の名前を覚える頃にはみんな死んでた(T-T)」みたいなコメントがあって大ウケした記憶が( ̄▽ ̄;)

今、私が欲しいな、読みたいな…やっとテーマだよ(^。^;)と思っているのは『視えるんです。』という、伊藤三巳華さんの実話ホラーコミュックエッセイと、益田ミリさんの『最初の、ひとくち』という文庫本です♪

前者はそのまんま(笑)な内容で、益田さんのは、最初に食べた時の思い出を綴ったエッセイだとありました。扱っているのが、ピノやきのこの山、とんがりコーンにアポロチョコ…などお馴染みのお菓子がいっぱいらしいのです。益田さんは、コミックエッセイを何冊か出していて、それも可愛く懐かしくオモシロイ~ので、古本屋で見つけて買いたいな~と(笑)

前に書いた『家族狩り』は一巻だけないので、まだ買っていないのですが、月末に新刊本ポイント10倍セールがあるので、何冊かお財布と相談して買いたいです!!









rohengram799 at 01:17コメント(3) 
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