椅子

2020年02月25日

花春雲便りNo.20:ひとつの椅子 ひとつの席 ひとりの女(ひと)

山梨にある美しい彫刻家具工房の記事を読みました。

https://m-tokuhain.arukikata.co.jp/hokuto/2020/02/post_69.html


椅子の写真を見ながら、黒田三郎さんの詩に「お座り…というようにここにひとつの椅子がある」ってなかったっけ (-ω- ?) と思って、検索したら椅子ではなくて席だった………! 記憶って曖昧でいい加減なものですね(; ̄ー ̄A




『そこにひとつの席が』 黒田 三郎


そこにひとつの席がある
僕の左側に
「お坐り」
いつでもそう言えるように
僕の左側に
いつも空いたままで
ひとつの席がある
 

恋人よ
霧の夜にたった一度だけ
あなたがそこに坐ったことがある
あなたには父があり母があった
あなたにはあなたの属する教会があった
坐ったばかりのあなたを
この世の掟が何と無造作に引立てて行ったことか
 

あなたはこの世で心やさしい娘であり
つつましい信徒でなければならなかった
恋人よ
どんなに多くの者であなたはなければならなかったろう
そのあなたが一夜
掟の網を小鳥のようにくぐり抜けて
僕の左側に坐りに来たのだった

 

一夜のうちに
僕の一生はすぎてしまったのであろうか
ああ その夜以来
昼も夜も僕の左側にいつも空いたままで
ひとつの席がある
僕は徒らに同じ言葉をくりかえすのだ
「お坐り」
そこにひとつの席がある
 





この恋人とは一夜限りで、もう逢えなくなってしまったのでしょうか? 「つつましい信徒」ということは婚前交渉などもちろん許されないでしょうし、親同士がいがみ合ってのロミジュリ状態のふたりだったとか? ← 妄想中(笑)


それとも逢えない時間が長くてもどかしくて、いつも自分の半分が失われているようでさびしくて悲しい、という気持ちなのかしら?


「不幸な恋人たちはいないんだ」であったらいいな……と思いながら、しみじみこの詩を読み返すワタクシなのでした。



  

rohengram799 at 16:45コメント(11) 
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