『日に何度も帰りたい、帰りたいといふ母が帰りたいところはどこか』(萩岡良博・歌集「周老王」より)



新聞でこの句を見つけた時に昔『詩とメルヘン』で読んだ「帰りたい 帰りたい 私はいったいどこに帰りのだろう」という詩の一節かあったのを思い出しました。自分でもわからないけれど、ここではないどこかに、自分が安らげる場所があるのでは・・・という気持ちは、誰の心の片隅にも存在しているのかも。



言葉というと『なくなりそうな世界のことば』を読みました。本屋さんで立ち読みですが・・・買わなくてスミマセン! アイヌ語では「イヨマンテ」がありましたが、「ヒライス」というウェールズ語が「もう帰れない場所へ帰りたいと思う気持ち」とあり・・・描かれたイラストにも胸がきゅーっとなりました。


http://dokushojin.com/article.html?i=1948





こちらも以前、気になって保存しておいた詩です。最初の一行から、苦しいなぁ、と思いました。





田村隆一「言葉のない世界」より 「帰途」


「帰途」

言葉なんかおぼえるんじゃなかった

言葉のない世界

意味が意味にならない世界に生きてたら

どんなによかったか



あなたが美しい言葉に復讐されても

そいつは ぼくとは無関係だ

きみが静かな意味に血を流したところで

そいつも無関係だ



あなたのやさしい眼のなかにある涙

きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦

ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら

ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう



あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか

きみの一滴の血に この世界の夕暮れの

ふるえるような夕焼けのひびきがあるか



言葉なんかおぼえるんじゃなかった

日本語とほのすこしの外国語をおぼえたおかげで

ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる

ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる