閉鎖病棟

2021年03月18日

華節雲便りNo.16:安楽

「痴呆」という呼称は2004年12月から「認知症」という言葉に変わりましたが、『安楽病棟』が書かれた時はまだ「痴呆病棟」という表現でした。同作者の『閉鎖病棟』が映画化されましたが、こちらの作品は舞台化されていたようです。

https://search.yahoo.co.jp/amp/s/amp.natalie.mu/stage/news/287933%3Fusqp%3Dmq331AQQKAGYAcTxwpDt1J76ELABIA%253D%253D


『安楽病棟』はテーマが重くて、読書メーターにもきちんとした感想を書く……ということが出来なかったのですが、本文中で特に印象に残ったところを抜粋します。本当はもっとたくさんあるのだけれど。



痴呆老人の異食症というのはこれといった防止策がなく、どこの病院でも苦労しているのが現状です。この春、地方の看護学会に参加したとき、高齢者看護の部会ばかりを聞いていました。そのときのフロアーからの追加発言が記憶に残っています。訪問看護をしていた九十三歳の女性が、老衰のため自宅で亡くなったそうです。その患者さんを火葬したところ、棺の中から黄金色の金属が出てきました。お棺の中にはもちろん何も入れていません。息子さんは大学の先生で、工学部の同僚の先生にその金属塊を持って行き、鑑定を頼みました。X線分析で調べてみると、金属塊は銅と亜鉛の合金で、五円硬貨十三枚分に相当するとの結果がでました。そのお年寄りは、床につく前、道を歩いていても、何か落ちていると口に入れるようになっていたそうです。おそらく、家の中ででも、五円硬貨を見つけたら呑み込んでいたのかもしれません。でも何故、穴の開いた五円玉だけのかは謎です。
発言した中年の看護婦さんは、多分その患者さんは〈三途の川の渡し賃〉を集めていたのではないかと、つけ加えました。穴あきの五円玉は他の硬貨と比べて昔のお金に似ています。わたしは知らなかったのですが、〈三途の川の渡し賃〉は六文だそうです。とすれば、その患者さんは一文銭と五円玉を間違えて呑み込み、口に入れた枚数も忘れてしまい、とうとう十三枚になったのかもしれません。
(「当直」p278 ~279 )



「でもね、麗ちゃん。看護婦さんのなかには、お年寄りの世話を嫌う人がいるけれど、わたしは好き。どうして好きなのか考えるのだけれどー」
わたしがいうのを麗ちゃんは真剣な眼で聞いています。「ここには時間がたくさん詰まっているような気がするの。麗ちゃんは十歳でしょう。わたしは麗ちゃんの二倍と少し。でも、患者さんたちはみんな七十歳とか八十歳。九十二歳もいる。そうすると、ここには入院患者さんが四十人いるでしょう。平均七十五歳としても、七十五かけの四十でー」(略)「三千年。そうすると、今がちょうど西暦二千年で、日本の歴史よりも古い。縦に並べた時間を横にするとね。だからここに来ると気が落ち着くの。他で嫌なことがあっても、三千年の長い時間のなかで考えれば、小さなことに思えて、腹も立たないし、くよくよもしなくなる。麗ちゃんも、いつか看護婦さんの言っている意味が分かるわ」
(「おてもやん」p388 ~ 389 )



大分の守実温泉も初めて知りました。浦安の「猫実」(*)を思い出しました。「実」のつく名前、地名ってなんかいいな〜。

https://www.yukoyuko.net/onsen/0307



忌み言葉のひとつとして「別府に行った」というのがあるそうです。私も祖父が亡くなった時に「下部(しもべ)の温泉に行ってウチにいないみたいだね」と母に話したとがありました。こちらの記事が興味深いです。ヒロシマにタバコを買いに行くとか…山梨だと富士山に登りに行った、とかあっても不思議じゃないかも…と思ったり。

https://blog.goo.ne.jp/uchikonotemae/e/29a03bc7e9a7be7097cbb84fbf04256f


*****


皆さま、よい1日を ♪(o・ω・)ノ))



(*)http://blog.livedoor.jp/rohengram799/archives/50711701.html


rohengram799 at 10:10コメント(6) 

2011年04月29日

第470号:愛を釣りに沖で待つ(^。^)y-~

芥川賞受賞作品の『沖で待つ』(絲山秋子)…タイトルからして海のオトコ達の苦悩やら葛藤やらのドシリアスな展開かと勝手に想像していたら全く違いましたわ(((・・;)


夫が妻に書いていたラブレターもどきの詩の一節がタイトルでした。


『俺は沖で待つ/小さな船でお前がやって来るのを/俺は大船だ/なにも怖くないぞ』


男性って港、港に女をつくり…気ままな水兵さんな感じですけど(笑) 船として一ヶ所に留まり、ましてや小舟を待つイメージなどなかったので、新鮮といえば新鮮…「お刺身でもいただけます」みたいな(笑)


沖にいる自分のところまで来い!!というのは亭主関白な気もしないではないが…「ある程度は人生の荒波を乗り越えないとダメだぜぃ!」みたいな感じなんでしょうか( ̄▽ ̄;) しかし、そこまでしてたどり着く価値のある殿方は世の中にどれくらいおられるのかしらん…女もそうですが(-_-;)


芥川賞はガチガチのいかにも純文学、難解で長編、直木賞はざっくばらんなアサヒ芸能か週刊大衆が(笑)みたい…というとんでもない先入観を持っているワタクシ(~o~) 本を買う時は受賞作云々なんて考えませんが、山本周五郎賞の『閉鎖病棟』(帚木蓬生・エロゲーにあらず!!)はすごく納得しました。


医者で作家のせんせ~は多いですが、私はこの方の作品が大好きです。どんな人間に対しても限りない愛を感じるから。『アフリカの蹄』もオススメです!!



rohengram799 at 10:34コメント(9) 
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