2016年05月12日

香雲便りNo.13:海峡の鎮魂歌(レクイエム)

今日もアツい1日になりましたね(;´д`)ゞ!


おぼろ雲便りNo.6:愛の宝石慶雲便りNo.20:はなやか!な火曜日(*´∀`)♪で作品を紹介させていただいたことがある、深津十一さんのブログで「書店での購入は九州でなければできません」という雑誌を知りました。九州につながりがない人はダメよ!ということはなく、内容も自由。ただ販売が九州onlyということだそうです。「通販で入手することはできますので、興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。」とのこと。伽鹿舎さんサイトの『片隅02』のページです。
  
http://m.kaji-ka.jp/editor/5716



さてさて……この前『海峡の鎮魂歌(レクイエム)』という熊谷達也さんの本を読みました。熊谷さんは仙台在住だそうで、あの震災から半年後、悩み迷いながら筆をとった長編小説で『烈風のレクイエム』を改題したものです。


昭和のはじめに函館を襲った3つな大きな「災害」。昭和9年の大火災、20年の大空襲、そして29年の青函連絡船「洞爺丸」の転覆事故。その全てに遭遇する函館の潜水夫・泊(とまり)敬介。大火災では母と妻を失い、幼い娘は行方不明のまま。避難する時に出逢った母子と生活するようになり、子どもが産まれますが、戦争によりまた思わぬ方向に事態が進みます。九死に一生を得て、迷い、絶望し……それでも助け合いなから生き抜いていこうとするく男とその「家族」の物語です。


「喪失」「再生」「鎮魂」の三部構成。ちょっと出来すぎじゃない?と思う再会などありますが、あの混乱の時代だからこそあり得たように感じますし、その奇蹟と思えるような出来事がないとあまりにも辛すぎると思いました。ただ遺体引き揚げ等に関して描写がかなり詳細なので、震災や火災、事故などで身近な方を亡くした人には読むのは拷問に近いものがあるかと思います。


敬介の血のつながりのない長男は、戦時中、自ら予科練に入ります。戦後、復員した息子に自分の後を継いでほしいと思いますが、頑なに拒否されます。それは実子でないことの反発ではなく、まだ幼い弟に対しての気づかいではなく……彼はあの特攻兵器「伏龍」の訓練兵だったのです。


伏龍は潜水服を着て、爆雷のついた竹槍を持ち、水中に潜って、近づいてきた敵に自爆攻撃をするというもの。「水際特攻隊」「幻の特攻兵器」「人間機雷」等、様々な異名で語られていますが、回天に比べたら知らない人の方が多いのかも……。潜水夫の仕事を知っていたから、伏龍がどんなに粗末なものかわかってきます。文章でもそれが綴られています。訓練中の仲間の死亡事故も見てきました。彼の人生が大きく変わったのは当然だと思えます。

http://blog.goo.ne.jp/raffaell0/e/8f5109701a1cecae47d2570716275399

http://magazine9.jp/60th/seguchi/index.html




物語の最後の方にこんな文章があります。心に留め置いて毎日を過ごしていきたいと思いました。



『人と人を結びつける絆は、人生の苦難や嵐を乗り越えれば乗り越えただけ、いっそう太くて頑固なものになる。ただし、その絆は、人の努力によってのみ作られる。裏返せば、努力を怠ったとたん、存在したはずの絆はあっさり切れる、ということだ。
そして、なにかの因果で生き延びてしまった者は、与えられた日々を精一杯生きることでしか、死者の魂を悼み、鎮めることができないし、それが残された者に課せられた義務なのだろう……。』




体調管理が難しい天気になっています。皆さま、どうぞお気をつけ下さい。





rohengram799 at 19:15コメント(8) | 空のお城図書館  

コメント一欄

1. Posted by のざわ   2016年05月12日 22:52
オスカーさん、こんばんは。熊谷達也という作家さんの名前は見たことがありましたが、この作品すごいですね。伏龍という言葉初めて目にしました。そして最後の引用はすごく重い内容ですね。余談ですが、トリテンさんもブログで私の本を紹介くださいました。重ねてお礼申し上げます。
2. Posted by なう60   2016年05月13日 07:50
おはようございます。
「人と人を結びつける絆は、人生の苦難や嵐を乗り越えれば乗り越えただけ、いっそう太くて頑固なものになる。ただし、その絆は、人の努力によってのみ作られる。裏返せば、努力を怠ったとたん、存在したはずの絆はあっさり切れる、ということだ。」納得の名言です。「心に留め置いて毎日を過ごしていきたい」素晴らしい人生の基本ですね。
3. Posted by オスカー   2016年05月13日 08:49
§のざわ様
マタギを描いた『邂逅の森』を読んでから熊谷さんの本を読むようになりました。ズッシリとして自分もその人生を体験したような気持ちになります。「伏龍」を扱った『群青に沈め』という短編もあります。まだ積ん読ですが。 ブログを通して本を通して繋がり広がる世界、今の時代に生きていてよかった!と思うことのひとつです(*^o^)/\(^-^*)
4. Posted by オスカー   2016年05月13日 08:58
§なう60様
ボランティア元年と言われる阪神淡路の震災に「絆」があちこちに溢れた東日本大震災…他にもたくさんの自然災害がありました。熊本地震も1ヶ月になりますが、まだまだ見通しがつかないので、本当にいろんなことを考えますが、指針となる言葉があると気持ちが落ち着きます。
5. Posted by ミューちゃん   2016年05月13日 16:57
5 オスカーさん、こんにちは
地震でも何でもそうですが、昔だと有り得ないと思っていた事が今だと有り得る話になってるのが僕は怖いんですよね便利になるのは勿論、良い事だけど、災害で避難所もしくは車中泊を強いられてる人達に関して言うと、その便利な物も一瞬にして使えなくなりますからねしないよりマシかと思いますが、巨額のお金を募金して、「○百万円募金しましたー」てブログで書くタレントを見ると、薄ら寒い感じがするんですよね…
6. Posted by オスカー   2016年05月13日 17:55
§ミューちゃん様
東北で震災を体験したマンガ家さんが「今まで常識と思い込んでいたものをすべてくつがえす地震ですね…。やはり知識は日々新しくしなければ。」と書いていました。そしていずれ九州初上陸したいと…私も同感です。募金等かなりの金額になっていますが、不公平感を最小限に抑えて分配して、役立てて欲しいです。
7. Posted by 見張り員   2016年05月14日 00:09
こんばんは
「伏龍」本当に唖然とするような兵器で、訓練中の事故死がたいへん多かったと聞いています。靖国神社遊就館に伏龍の模型というのでしょうか…があるのですが「これで特攻」をするのだと思ったらなんだかとても可哀そうになります。そこまで追い詰められてしまった日本の断末魔がそこにあるような気がしてなりません。

そして『絆』という言葉。東日本大震災発災後、よく聞かれるようにはなりましたがあれから五年たち、その意味もなんだか薄らいでしまったような…、オスカーさんが最後に紹介してくださった言葉がとても重く感じられますね。
8. Posted by オスカー   2016年05月14日 08:49
§見張り員さま
「絆」について、騒がれている時に感じた違和感みたいなものが文章にまとめられているように思いました。体験者だからこその重みですね。
「伏龍」「桜花」など名前だけは凛々しく美しいのですが、その実態は……もうそんな時代になりませんように。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メッセージ

名前
メール
本文
記事検索
月別アーカイブ