2018年04月14日

清和雲便りNo.15:桜は黙って

桜を題材にした作品ってたくさんありますね。忘れないように、今日も桜の詩を置いていきます。この光景が映画のように脳内で再生されました。イイノさんの思い出の中にある桜はどんな姿だったのかなぁ・・・。スタッフの歓声とイイノさんの涙、花も人もみんな美しく「生きている」と思いました。



『桜は黙って』  原 利代子


南に住む人から 早咲きの桜の花が
蛍の丘老人病院に届けられた
病院はスタッフたちは
見事な桜の枝をかつぎ
入院中の患者たちに見せて回った


認知症で寝たきりの
イイノさんの部屋にも桜がやつてきた
上を向き 寝たままのイイノさんの顔の上に
満開の桜の花をかざして見せた
焦点の定まらない老人の目
しばらくは ただの空ろに ぼんやりとー
やがて その目がゆっくりと瞬きをすると
かわいた小さなほら穴の奥から
清らかな水が涌きでてくるように
イイノさんの目に涙が浮かんできた
涙はいっぱいになり 目から溢れ
ひとすじ またひとすじと
ほほをつたってこぼれ落ちた


花びらは その上に 優しくふりそそいだ
スタッフの口から
おおーっ という声が上がる
イイノさんの顔は桜色に照り映えていた
イイノさんは春の野の中にいた


しばらくすると老人は潤んだままの瞳を閉じ
また いつものように眠った
桜の花は その上で
黙って咲いていた



『ラッキーガール』 より
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/item_266.html

                   

rohengram799 at 14:34コメント(2)医療・臓器移植・介護・福祉関係  

コメント一覧

1. Posted by まろゆーろ   2018年04月18日 00:06
こんばんは。
なんてステキな場面なんだろう。束の間正気に戻ったご老人の胸の内を思うと、桜好きの僕もいずれはと思ってしまいました。
桜はもとより過去に見聞きした物ごとがある時一瞬の輝きとして心に戻ってくる...。人生の証人でしょうか。
大学生の頃のバイト先の工場にあった大きな桜の枝が折れて、もったいないからとそれを担いで阪急茨木市駅辺りの知人宅に届けたことを思い出させてもらいました。
週末は一気に夏天気とか。くれぐれもご自愛召されたく。
2. Posted by オスカー   2018年04月18日 13:26
まろゆーろ様
風が強かったり雨が降ったりで、植物にはツラいのではないかと思ったり。今はハナミズキやアジサイの葉が美しいです。 ひとりひとりの心に咲く花、日本人の心象風景に欠かせない桜、みんなが詩人になれる気がします。

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