2018年09月28日

菊咲雲便りNo.17:ほぐす

樹木希林さんの訃報をワイドショーが取り上げた時に、必ずといっていいほどあの「ゼクシィ」のコマーシャルが流れていましたよね。以前、茨木のり子さんの『知命』という詩を紹介しましたが、「ほどく」と「ほぐす」の微妙な違いが人間関係と夫婦関係なのかしら、なんて思ってしまいました。最初、タイトルを見た時に「心身をほぐしてリラックス!」な詩かと思ったら違ったので、あら・・・となりました(。・ω・。)





『ほぐす』   吉野弘


小包みの紐の結び目をほぐしながら
思ってみる
- 結ぶときより、ほぐすとき
すこしの辛抱が要るようだと

人と人との愛欲の
日々に連らねる熱い結び目も
冷(さ)めてからあと、ほぐさねばならないとき
多くのつらい時を費すように

紐であれ、愛欲であれ、結ぶときは
「結ぶ」とも気付かぬのではないか
ほぐすときになって、はじめて
結んだことに気付くのではないか

だから、別れる二人は、それぞれに
記憶の中の、入りくんだ縺(もつ)れに手を当て
結び目のどれもが思いのほか固いのを
涙もなしに、なつかしむのではないか

互いのきづなを
あとで断つことになろうなどとは
万に一つも考えていなかった日の幸福の結び目
- その確かな証拠を見つけでもしたように

小包みの紐の結び目って
どうしてこうも固いんだろう、などと
呟きながらほぐした日もあったのを
寒々と、思い出したりして


    

rohengram799 at 10:23コメント(0) | 吉野弘  

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