ハンネラ

2017年11月21日

霜見雲便りNo.21:霜夜

朝、寒くて目が覚めるようになりました。梅雨はなく、残暑厳しく、季節外れとも言える台風が続いて、今年は「秋」がなかった、とは言いませんが!短かったという感じがします。



芥川龍之介の随筆に『霜夜』がありました。「そうや」と読むのか「しもよ」と読むのか・・・季語では「しもよ」と読むみたいですね。空が晴れて霜の降りる寒い夜。与謝蕪村の『我骨のふとんにさはる霜夜哉』とか骨身にしみるヒンヤリとした空気を感じますわ。





『霜夜』(芥川龍之介) 青空文庫より転載


 霜夜の記憶の一つ。
 いつものやうに机に向つてゐると、いつか十二時を打つ音がする。十二時には必ず寝ることにしてゐる。今夜もまづ本を閉ぢ、それからあした坐り次第、直に仕事にかかれるやうに机の上を片づける。片づけると云つても大したことはない。原稿用紙と入用の書物とを一まとめに重ねるばかりである。最後に火鉢の火の始末をする。はんねらの瓶に鉄瓶の湯をつぎ、その中へ火を一つづつ入れる。火は見る見る黒くなる。炭の鳴る音も盛んにする。水蒸気ももやもや立ち昇る。何か楽しい心もちがする。何か又はかない心もちもする。床は次の間にとつてある。次の間も書斎も二階である。寝る前には必ず下へおり、のびのびと一人小便をする。今夜もそつと二階を下りる。家族の眼をさまさせないやうに、出来るだけそつと二階を下りる。座敷の次の間に電燈がついてゐる。まだ誰か起きてゐるなと思ふ。誰が起きてゐるのかしらとも思ふ。その部屋の外を通りかかると、六十八になる伯母が一人、古い綿をのばしてゐる。かすかに光る絹の綿である。
「伯母さん」と云ふ。「まだ起きてゐたの?」と云ふ。「ああ、今これだけしてしまはうと思つて。お前ももう寝るのだらう?」と云ふ。後架の電燈はどうしてもつかない。やむを得ず暗いまま小便をする。後架の窓の外には竹が生えてゐる。風のある晩は葉のすれる音がする。今夜は音も何もしない。唯寒い夜に封じられてゐる。

薄綿はのばし兼ねたる霜夜かな





「はんねら」ってなにかと思ったら「半練」と書いて、東南アジアで焼かれた土器の壺のことみたいですね。茶の湯の道具に好んで用いられるそうです。素朴さが「わびさび」に合うのかしら?



・・・「伯母さん」と云ふ。「まだ起きてゐたの?」と云ふ。「ああ、今これだけしてしまはうと思つて。お前ももう寝るのだらう?」と云ふ。・・・




この場面、なんとなく懐かしい田舎の夜を思い出しました。「まだ起きてたの?」「はやく寝た方がいいよ」みたいな会話は、寒い夜には一段とあたたかい~まぁ、言い方にもよりますけど(笑)



皆さまも夜更かしして風邪なとひきませんように、お気をつけ下さいませ。




rohengram799 at 12:04コメント(4) 
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