2019年11月18日

菊花雲便りNo.16:母の匂い

青空文庫で『母の匂い』を読みました。作者の佐藤垢石(*)という人は釣りが本当に好きらしく、青空文庫にある話はほとんど釣りのような…短い話なのでスキマ時間の活用には便利(笑)




 母はいつも、釣りから戻ってきた父をやさしくいたわった。子供心に、私はそれが何より嬉しかった。
 やはり、五月はじめのある朝、父と二人で、村の河原の雷電神社下の釣り場へ若鮎釣りを志して行った。父と私が釣り場へ行く時には、いつも養蚕に使う桑籠用の大笊ざるを携えるのであった。あまり数多くの若鮎が釣れるので、小さな魚籠びくではすぐ一杯になってしまい、物の役にたたなかったのである。
 釣り場へ着くと大笊を、二人の間の浅い瀬脇へ浸けてから、鈎をおろすのを慣わしとした。道糸を流して流れの七分三分のところまで行くと、目印につけた水鳥の白羽がツイと揺れる。若鮎が、毛鈎けばりをくわえたのだ。軽く鈎合わせをする。掛かった鮎を、そのまま大笊の上へ持ってきて振り落とす。
 こうして、二時間もすると、大笊のなかは若鮎の背の色で、真っ黒になるのを常としたのであった。
 お腹が、すいてきた。
『お母さんは、もうきそうなものだね』
 と、私は無言のまま一心に道糸を見つめる父に話しかけた。腹がすいてくるのを覚えるといつも間もなく母がお弁当を持ってくる時刻になるからである。やがて、崖の上から、
『どうだい、釣れたかい?』
 と、言う和やかな母の声が、群れ泳ぐ笊のなかの鮎を、首を突っ込んで覗いている私に聞こえた。振り返ると母はにこやかに微笑ほほえんでいる。
 母は坂路を下りてきた。お鉢とお重を近くの小石の上へ置いた。大きな平らな石が卓袱台ちゃぶだいである。母が給仕をして瀬の囁ささやきを聞きながら、親子三人で、水入らずの朝飯を食べたのである。お重のなかには、昨日釣った鮎が煮びたしとなって入っていた。プーンと、鮎特有の香が漂う。
 それからというもの、私はこの歳になるまで鮎の煮びたしに亡き母の匂いを感じる。




鮎の煮びたし……食べたことはないけど、今は贅沢な一品なんでしょう。「母の匂い」というとお洗濯とか化粧品かなと考えてしまうけれど…。お弁当を持って来てくれるお母さん、食べている様子を嬉しそうに見ているお母さんの姿が浮かびます。




亡き人への想い………今朝、スターダスト・レビューの『木蓮の涙』を思い出すイラストを見たので、この歌を聴くために検索していたらこんな記事を見つけました。これを読んだ後に歌を聴くとまたしみじみ……よろしければどうぞ。

http://ongakubun.com/archives/8829

https://sp.uta-net.com/movie/4532/



(*)佐藤垢石 さとう-こうせき
1888-1956 昭和時代の随筆家。
明治21年6月18日生まれ。「報知新聞」の記者となり,退職後,釣りを中心とした随筆を発表。昭和21年雑誌「つり人」を創刊。鮎(あゆ)釣りの名人として知られた。昭和31年7月4日死去。68歳。群馬県出身。早大中退。本名は亀吉。随筆に「たぬき汁」など。




rohengram799 at 11:30コメント(6) 

2018年01月14日

新光雲便りNo.8:そうだ!京都を読もう(*´∀`)♪

「そうだ、京都に行こう!」と思ってもなかなか行けないので、気分だけでもところ『京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ』を読みました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/321706000414/


円居挽さんの作品は『丸太町ルヴォワール』を読んだことがあります。話の内容は面白くて好きだったのですが、地理がサッパリでした(^o^;) この時よりは場所がわかった気がします!

http://d.hatena.ne.jp/nyapoona/touch/20120925/1348550933




「町を歩いて不思議なバーへ」というサブタイトルがついていたので、やたらにお酒の話ばかりだったらついていけないかも、と思っていたけれどそんなこともなく・・・1話ごとの扉にレシピがあるので好きな人はシャカシャカとカクテルを作ったりするのかも。アブサンはデカブリオがランボーを演じた映画『太陽と月に背いて』にでてきたのでわかりました(笑) ギネス(黒ビール)とカナダドライ(ジンジャエール)、どんな味なのか・・・?

京都の名所ももちろん出てきて、京都水族館では鮎の塩焼きドッグを食べる場面が。そこでの「なんちゅうもんを食わせてくれたんや・・・・・・」は『美味しんぼ』で京極さんが四万十川の鮎を食べた時のリアクションだったので、笑ってしまった! もしかしたら、他にも私が知らないだけでいろんなパロディが盛り込まれているのかもしれない。


また、京都といえば「川床」ですが、これについても「貴船(きふね)や高雄(たかお)やと『かわどこ』で合(お)うてるけど、それが鴨川やと『かわゆか』になるんや」(p61)と三条で「かわどこ」を連呼している主人公が教えられる場面もありました。

http://unitten.hatenablog.com/entry/2015/05/02/104650


主人公・遠近(とおちか)くんの恋心の行方も気になるので、続編があったらいいなぁと思っています。




rohengram799 at 08:30コメント(6) 

2017年09月23日

竹酔雲便りNo.19:ギョギョ(*゜д゜*)

今日は「秋分の日」なので、秋のつく作家さん、徳田秋声の『町の踊り場』を読みました・・・っていうか、仕事が休憩時間に読む本がなかったので、青空文庫で検索して(笑)


内容はうーん、と特筆することがなかったのですが(私には)、食べ物で「魚田」というのが出てきました。「ぎょでん」と読みます。初めて聞いた!


「魚の田楽」で「魚を串に刺し、白焼、さっと焼いて焦げめをつけた料理」とありました。検索したら、キューピー3分クッキングにレシピが~いやぁ、便利になりました(笑)


http://www.ntv.co.jp/3min/sp/recipe/19980707.html



普通に塩焼きの方が美味しいのでは?と思ったけれど、どうなのかしらん?





rohengram799 at 21:50コメント(8) 
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